本の話(楽屋編)

 休日の昼下がり、レンはその辺にあった本を手に取った。ソファーに座って、ぼんやりと読み始める。タイトルはなんとなく説明的だった気がするが、暇さえ潰せれば正直なんでもいい。多分、よくあるラノベとかいうやつ、だ。
 数ページ読み進めたところで、リンが部屋に入ってきた。リンは何を言うでもなく、レンの隣に座る。レンはリンにはお構いなしで、本を読み続ける。リンはしばらくぼんやりと座っていたが、すぐに本を読むレンの横顔を見つめ始めた。自分の髪の毛先を指でいじりつつ、レンに視線を送り続けてみるが、レンは本に没頭している。
「レン~。遊ぼうよ~」
 リンはついに我慢できなくなったのか、レンにちょっかいをかけ始めた。
「うるさいなあ、集中してるのに……」
 リンに腕を握られるので、レンはそれを払いながら次の文を読む。本を読んでいる最中に声をかけるなんて普通ないだろ、と思いながらも、よくあることなので、レンはリンのちょっかいを適当にいなした。
「レンって別に文学少年じゃないでしょ~? 真剣に本なんか読んじゃってさ」
 リンは、レンの腕を触るのはやめたが、今度は読んでいる本を覗き込み始めた。
「文学少年じゃないと本読んじゃいけないのかよ!」
 レンはさすがに耐えられなくなり、リンの方を一回見た。そして、ああ、続き読みたいのに、と本に目を戻す。……しかし、一度目を離してしまったから、どこを読んでいたか忘れてしまった。
「なんだよもう、邪魔だなあ。これ読みたいの?」
 手早く栞の紐を挟んで、いつ閉じてもいいようにする。開いたページに親指をかけて、レンはもう一度、リンに顔を向けた。
「そんなに読みたいなら、後で貸すから離れて」
「違うの」
 リンはやけに真剣な顔で、開かれているページを覗き込んでいる。
「……あんまりそれ、読み進めない方がいいと思うんだよね」
 リンは小さな声で言うと、ソファーに座り直して、レンから視線を反らした。
「どういうこと? てか、そんなのリンに止める権利なんかあるの?」
 そう言いつつ、レンは無視して次のページを開いた。
 数文読むと、主人公の男の子がうっかり女の子の着替えを目撃してしまうシーンに入り……。
「……」
 急に恥ずかしくなったレンは、そのページを開いた状態で本を伏せた。
「言ったでしょ? レンそういうのあんまり得意じゃないし」
 リンはレンの横から得意気に言ってきた。
「……べ、別にこんなの、作り話だろ」
 そう言いながらも、動揺が隠しきれない。伏せた本から離す手が少し震えてしまう。
「てか、なんでリンは……」
「それはもう読んだことあるの」
 こんなの読んだのかよ、と言いかけるが、……まあ、よくあるラノベだし、部屋にあったのだから、リンが読み終わっていても不思議ではないのかもしれない。
「ま、そこまで読んだなら最後まで読みたいでしょ。私は知らない」
 ソファーから立ち上がったリンは、そう言いながら、そそくさと部屋の扉まで歩いていく。
「なんだよ、口挟んできておいて……!」
「ネタバレしちゃうといけないから、しばらく一人にしておいてあげるね。じゃあ」
 レンはリンの方へ体を向けるが、リンは扉を開けて部屋の外に出てしまっている。
「え、この本、話として面白い? 大丈夫?」
「最後まで読めば分かるでしょ。知らなーい」
 扉の隙間から顔を覗かせて言うと、リンはわざと大きな音を立てて扉を閉めた。
 レンは、気分がもやっとしたまま、次のページをめくるしかなくなったのであった。