※これ以降、お仕事の内容にあたるストーリーが若干物騒(犯罪あり)ですのでご注意ください。
#073
『またお前か』
『……』
『これで僕がお前を捕まえるのは何度目になるんだ?』
『知るか』
『……今度こそ逃がさないからな』
『……』
そして、どうせ、逃げられる。
――っていう、シナリオ。
基本的に、僕が何か喋って、バボさんは、ほとんど喋らず、睨んでくるっていう、シナリオ。
シナリオの上では、バボさんは何度も罪を犯して、
そのたびに僕はバボさんを捕まえる、らしい。
簡単に言えばただの敵同士なんだけど、
だんだん、僕の方の執着が強くなっていく……という、話らしい。
そういう話だから、撮影が終わってすぐに態度を変えるなんて器用なことはできなくて、
僕たちは撮影が一旦終わった後も、お互い撮影中の雰囲気をなんとなく引きずっていた。
さて、次のシーンの確認をしなきゃ……。
『……疲れた。僕は何のためにこんなに人を殺してきた?
自分の力を試してみたかった?
いつまで続けるんだ? どうせまた、あいつに捕まるんだよな。
あいつに捕まらないために、今までいろんな手を打ってきたけど、もう……疲れた。
いつの間に、あいつに勝つことが目的になっていたんだ?
逃げなければ、どうせ、もう、終身刑だ』
実際撮影でここまで言うわけじゃないんだけど、
あるとき、罪を犯し続けた少年が、逃げるのをやめる理由は、そういうことらしい。
それを、警官は……普通、やっと終わった、って、言うよなあ。
また、二人のシーンが、始まる。
『……おとなしいな』
『……』
『逃げないのか?』
『……もう、疲れたんだ』
『疲れた?』
『人を、殺すのにも、お前から、逃げるのにも、疲れた』
「それなら、今まで犯してきたきた罪の罰をちゃんと受けるんだ」と、僕は、言わない。
『……何言ってるんだよ』
『は?』
『何言ってるんだよ! またお前が罪を犯すのを、僕は待ってたのに!』
『……は?』
『面白くない! もっと、もっと……僕を、楽しませろ!
何だ? 殺す相手もいなくなったのか? それなら僕が指示してやるよ。
それでも、もう殺さないって言うなら……無理やりにでも、そう思わせてやる』
僕はそういう台詞を言いながら、バボさんに近づいていって、
手を、顔に近づけるところまでいって、そのシーンが終わった。
僕がバボさんの顔から手を下ろすより前に、バボさんは僕から飛び退くように離れた。
そして、近くに置いていたガスマスクをつけると、そわそわした感じで次のシーンの台本を読み始めた。
……あっ、あれ……?
よく見ると、バボさんの目にうっすらと涙が……、
いや、まさかバボさんが泣くなんて、いや、まさか……いや……。