※お仕事の内容にあたるストーリーが若干物騒(犯罪あり)ですのでご注意ください。
#074
うーん、しかし、「もっと犯罪をしろ」って警官もひどいよな。
僕は自分の役に首を傾げながら、マスクをつけて台本を食い入るように見ているバボさんに目をやった。
……異常なぐらい、台本に顔を近づけてる。
結構緊迫した感じのシーンが続いて疲れてるし、
次の撮影までは長めの休憩をもらえることになった。
……けど、バボさんは相変わらず台本を掴んだまま、台詞を睨んでいる。
ちょっとその手が、震えているようにも見えて……いや、まさかな……。
正直僕も、初めての撮影の仕事がこんな役だなんて思ってなかったし、
さっきの緊張感に耐えられなくなってきたので、
僕はバボさんに話しかけてみることにしてみた。
「あの」
僕が言うと、バボさんは台本を投げるように椅子に置いて、立ち上がった。
「はっ……なっ……なん……だっ!」
声、震えてる……。
「そ、そのマスク、毎回つけてるの……?」
「えっ……」
最初は睨むように僕を見ていたバボさんが、だんだん、勢いをなくして、
ちょっと不安そうな目をし始めた。
「……ぼっ、僕は! あまり! 喋らないので!」
言葉を無理やり絞り出すように、バボさんは言った。
「……そ、そうなん……だ……?」
僕は相変わらずバボさんを見ていたけど、
僕を見るバボさんの目には、やっぱり涙っぽいものが見えてきた。
……まさか、とは思うけど……、僕、恐がられてる?
「……あの……まさか、さっきの……」
「!!」
「さっきの……恐かった……とか……」
僕はまさか、と思いながら、言った。
しばらく沈黙が続いてから、バボさんは、首を縦に振った。
「や、やだな! 演技だよ! 演技!!
僕があんな考え方するなんてありえないし!」
「……で、……ですよね!!!!」
ですよね!?
僕はそれに驚いてしまったけど、……これが、バボさんの、素?
「あっ、あの……僕、こんな、格好だから、
できるだけ、その……威圧感あるような感じを……目指そうと、してて、
でも、あの、本当は、僕はそんなの無理で……!」
「ちょ、ちょっとバボさん? 落ち着いて??
まさかだけどさ、バボさん、実はすごく……」
「僕は、びびりです……引っ込み思案です……それに」
「うわー!! それ以上は言わなくていいよ! ごめん!」
まさか、ここにきて、バボさんの素を知ることになるなんて……。
どうも、バボさんは今まで自分の素を必死で隠してきたみたいなんだけど、
ここにきて、だんだん隠し通すのが辛くなってきたらしい。
「まだ、撮影は、続きますし、執行部さんにこれ以上隠すのも……」
「そうだね、撮影の合間にこうやって話せないの、正直僕辛かったからさ」
今まで、全然話す機会なんかなかったけど、
こうやって撮影で仲良くなれるのって、いいなー、と、僕は思いながら、
次のシーンを確認した。
『早く、やめさせてくれ。僕の犯罪を、早く、止めてくれ』
『そう簡単に、やめさせるわけにはいかないな』
『……そうだ、あいつを、殺せばいいんだ。最初からそうしていればよかったんだ』
「……」
「物騒だね」
「ですね……」
シナリオは、相変わらずだけど。
そして、最後のシーンの撮影に、入ることになった。
やっと、終わりだ。
「頑張ろうね、バボさん……いや、『犯罪者さん』?」
「はい、『警官さん』」
撮影となれば、お互い、本気になるからね。
スイッチを切り替えるように、僕たちはそう言い合った。
『ちゃんと殺せたの?』
『……』
『どうなの?』
『次は、お前だ』
刺された、ふりをして、
罪を犯し続けた少年は、自分を最後に、殺して、
『……この程度で、殺せたとでも……思ったの?』
……。
「うわーん!! 僕はやっぱりドラムがー!!」
「僕はただの学生ー!!」
こうして、僕たちは、仲良くなった。