会話#086+「月光」 - 3/4

#088

「はい、こっち見てー、うん、そうそう。
あ、もうちょっと顔ゆるめてもいいよ、うん。大丈夫大丈夫」
撮影の予行練習で、僕はオリジナルさんに演技練習のようなものをしてもらうことになった。
「はい、おっけー」
「……ふう」
オリジナルさんが手を叩く。
「ね、簡単でしょ」
「……そうかな」
「え、難しかった?」
「……いや、そこまで……」
「でしょ、そんなもんだよー」
本当に、言われたとおり、やってみただけだから、難しくはなかった……と、思う。
「いいー? 何でもどんと来いって構えてればいいんだよ!」
「う、うん!」
「もしかしたら、「故郷の彼女を思う気持ちで!」とか意味の分かんない指示が飛んでくるとかはあるかもしれないけどね!」
「あはは、それは困る!」
練習、とか、撮影、とか、妙に緊張していたけど、
オリジナルさんは僕の気持ちをだいぶほぐしてくれた。

そのままの気持ちで撮影の一日目を迎えた。
ここに立って、この動きをして、とか、色々指示をされたけど、
難なく僕はそれをこなせた。
……そういえば、楽器を弾くふり、の割には、割と動きは上手なんて、言われたっけ。
なんだ、僕は元から、こういうことができたんだ……。

この日の分の撮影が終わって、僕が部屋に戻って椅子に座っていると、戸を叩く音がした。
戸を中から開くと、オリジナルさんが籠を持って立っていた。
「お疲れ様! はい、バナナー!」
あ、そっか。今日の分のバナナは今までおあずけだった。
「ありがとう、オリジナルさん」
「いえいえ」
オリジナルさんは仕事を伝えに来たときと同じように、部屋の中に入ってきた。

「どうだった? 大丈夫だった?」
「なんとか、思ったより、すんなり」
そういえば、ちょっと疲れたな、と思って、大きく息を吐くと、オリジナルさんはくすっと笑った。
「ほらー。だから心配しなくていいって言ったんだよ。……頑張ったね」
「……ちょっと、自信が、持てたかなって」
「自信、ね」
オリジナルさんは僕の言った言葉を繰り返してから、宙を見上げた。

「僕だって、最初から自信なんてなかったんだ。
でも、色々やるうちに、色々できるようになって。
歌だけじゃない、いつの間にかギターが弾けたり、
ドラムが叩けたり、ダンスができたり、演技ができたり……。
それを、いつの間にか皆も、僕の理解をこえてやっている気がするんだ。
……もちろん、君もだよ」
「え?」
「鶴くん、君は決めるときに決められる。
和服の中でもかっこよさを出せる。
鳳月くんは君とはまた違う魅力があるし、君にも君の魅力があるんだよ。
それは僕にはない、君の魅力なんだよ」
「……」
僕の魅力、なんて、考えたこともなかった。
しかも、それを、オリジナルさんから聞くことになるなんて。
「それにさ、例えばね、僕にできた昔からいる後輩で、君が知ってるのはアペンドかな。
あいつも最初は僕から色々教わったんだよ。
言っとくけど僕が先輩なんだからね。
あいつ、今では僕よりよっぽど演技とかうまくなっちゃったけどさ……」
「で、でも、オリジナルさんだって何でもこなすよね?
僕にとってはアペンドさんもオリジナルさんもすごすぎて」
「あはは、ありがとう。つまり、君が思うすごい人も、
君が前まで思ってたように、自信がないとき、何もできないときがあったってことだから」
「……うん」
前までの自分が少し、ばかばかしく感じてきた。
「君にも、いつか後輩ができるときが来る。
だから、自信もっていいんだよ。
持てないなら、持てるまで、先輩になるときまで、がんばるんだよ」
「……先輩……」
「なーんて、ちょっと偉そうだったかな?」
「お、オリジナルさんは一番の先輩だから、偉そうにしててもいいんじゃないかな!」
「えへへ、そう? じゃあ偉そうにしちゃう!」
あらためて、先輩としてのオリジナルさんがちょっと眩しく見えたような気がして、
それから、自分が先輩になったときのことをちょっと想像して
……それは、あまり、うまく想像できなかった。