#089
次の日の撮影に入った。
少しやり直しも挟みながら、それでも順調に撮影は進んだ。
撮影の休憩中、僕が風を浴びるために外へ出ようとすると、
「お疲れ様」
と、声をかけられた。
「……鳳月? ど、どうしてここに」
全然いることに気付かなかった。撮影に集中しすぎてたせいか、
それとも、鳳月がずっと隠れていたからかは分からないけど。
「見に来た」
「……そ、そうなんだ」
そういえば、怒らせてしまってから、話してなくて、
僕はその後の言葉に詰まった。……結局、どうして怒らせたのか、僕は考える暇もなく、
撮影に入ってしまったから……。
「鶴は、すごいね。……自分には、できない、似合いそうもないって思った」
鳳月は、いつものように小さな声で言った。
「な、何言ってるんだよ。鳳月には鳳月の得意なことがあるだろ」
と、僕が答えると、鳳月は少しだけ表情を明るくした。
「……それは、鶴も、そうだよね」
「……!」
「だから、何もできないとか、言わないんで欲しいんだ」
怒らせてしまった時に、僕が言った言葉を思い出して、僕は顔が熱くなってきた。
僕には得意なものはない、なんて……、それで、鳳月は、怒ったんだ。
でも、今ので……許して、くれたかな。僕にも、できることはあるって、やっとわかったから。
それで、いつか、僕が先輩になるときには、僕は、
「……鶴さん!」
僕が踊りの練習をしていると、声をかけられた。
……声をかけてきたのは、扇舞くんだ。
「素敵でした!」
今の、適当な踊りを、素敵?
ちょっと不思議な気分になったけど、それより。
「扇舞くん、僕にさん付けなんかいいよ!
堅苦しいことなんかしなくていいんだから」
僕なんてそんな立派じゃない。……でも、本当に先輩になる日は来たんだ。