会話#092+「祝賀」 - 2/4

#093

撮影の仕事が明日から始まるわけだけど、僕は全然落ち着かなかった。
こんな時、何をすれば気が紛れるんだろう。
今まで、トラッドさんと一緒の空間にいるなんて緊張で無理で、
いつもそうなる前に逃げてきた。でも、明日からそんな訳にはいかない……。
だ、大体、女の子とどうしてるのが普通なんだ。
僕達の仲間で相方がいるような人は皆、もう相方として慣れちゃってるように見えるし。
そういう意味では、オリジナルさん達はいいよな……。

だめだ。考えを巡らせても余計に落ち着かないだけだ。
こんなときは、別のことに集中すればいいんだ。

僕は材料を買い込んだ。お菓子を作る。
作ってる間は、考えなくてすむ……!
……で、でも、買いすぎた。重い……。
僕は調理室まで、材料の重さによろけながらゆっくり歩いていた。
すると、前から扇舞くんと胡蝶さんが歩いてきた。

――あの二人も、いいよな……。
胡蝶さんはたまに迷惑してるみたいだけど、それでもお互い「好き」みたいだし。

「あ。執行部くんだ」
扇舞くんがそう言って、それからなぜかにやついた。
「聞いたよ?」
「……な、なにを」
「共演だって」
「!?」
僕がびっくりするのを、更に扇舞くんは面白そうな顔で見ている。
そして、僕の方に近寄ってきた。
「トラッドさんでしょ? よかったなっ、この!」
そう言って僕の頬をつつこうとして来て、僕は必死でそれを避けた。
「な、何だよ! 何なんだよ!」
「仲良く出来るといいね!」
「な、仲良くって、そんなの! 仕事なんだからちゃんと迷惑かけないように、……」
「ああー、そうだよねえ、別に馴れ合いの場じゃないし?」
「あっ、当たり前だろ!」
何なんだよ、何で扇舞くんは、僕にトラッドさんの話をするとき、こんな楽しそうなんだよ。

「……扇舞、やめてあげて」
胡蝶さんが言って、扇舞くんはちょっと不服そうな顔をしながら、僕から離れた。
「だってさー、執行部くんにとってはチャンスじゃん。
僕としては、こうやってそわそわしてる執行部くん見てる方が楽しいんだけど」
「扇舞、いじわる」
「……むう」

胡蝶さんは、扇舞くんをちょっと睨んでから、
僕の持っている材料の袋を見つめてきた。
「……お菓子、作るの?」
「えっ、……うん」
僕が答えると、胡蝶さんは嬉しそうな顔をした。
「あっ、ぜ、絶対余るし、できたら、あげるよ」
「ほんと? 食べる」
うきうきしはじめた胡蝶さんと、しどろもどろになっている僕を、扇舞くんがかわるがわる見た。
「……もう、僕の胡蝶を誘惑しないでよね」
「ゆ、誘惑!?」
「胡蝶は僕のだからな!」
「わかってるよ!!」
扇舞くんは胡蝶さんの手を握って、僕から距離を遠ざけた。
僕の、ってはっきり言うところがすごいよな、と僕が思っていると、
胡蝶さんは握られた方の手の腕を、抵抗するように揺らした。
「……扇舞、僕の、っていうのは、やめたほうが、いい」
「胡蝶……うっ……」
扇舞くんはショックを受けているけど、
それでもこの二人はそう言い合えるだけ、まだいいよな……。
僕なんて、話せもしないのに。

「とにかく、作るんでしょ、お菓子。
胡蝶も楽しみにしてるし、さっさと作ってよ。
そんなに材料買い込んじゃってさ……。
ほら、半分持つから、早く調理室行こう」
扇舞くんはそう言って、僕の片方の手から、材料の袋を奪った。
「あ、ありがと……」
「……その溢れてる分、私が持つ」
胡蝶さんも、袋から出そうな材料を少しずつ取った。
「胡蝶さんまで。ありがと……」
「いいよ」
「ほんとすごい量だよね。
あー、でもあれか、せっかくトラッドさんとの共演だもんな、
それ祝いに、作ったお菓子でパーティーとかできそうだね!」
「なっ、別に祝いたいわけじゃ……!」

僕が言い返すより先に、扇舞くんが調理室に向かって走って行ってしまって、
僕は慌ててそれを追いかけた。