会話#092+「祝賀」 - 3/4

#094

さて、ついに撮影の仕事の本番が来てしまった。
僕達合計6人は、早速控室で合流した。

「リン、がんばろーね!」
「うん!」
オリジナルさんはすぐに相方の方に駆け寄って行った。
「私たちやることあるのかな」
「ないんじゃない。寝たい」
……アペンドさん組はなぜか無気力なんだけど……。
「やることあるよ! 何言ってんの!」
リンのオリジナルさんの方が怒ってるけど、アペンドさんの方は不思議そうな顔で、
僕とトラッドさんの方を見た。

「だって、メインはあの二人だよ」

僕達はオリジナルさんたちとアペンドさんたちに見られて、思わず硬直した。
……そう、そうなんだけど。

今日言われたんだけど、僕とトラッドさんがメインでやって、
僕達が休憩している間は、ピンチヒッターでオリジナルさんたち、
たまにアペンドさんたちも呼ばれる、みたいな感じらしい。

だからオリジナルさんたちは、控えでバットを振って準備万端、みたいなテンションでいるし、
アペンドさんたちはベンチで見てるだけ、みたいなテンションなんだけど……。

「ふたりともさ、ほら、初仕事でしょ。せめてよろしくー、のあいさつとかしないの?
背中向け合っちゃって、どうしたの?」
そう言われて、僕はそっとトラッドさんの方を見た。
トラッドさんも、同じように僕の方を見て、恥ずかしそうに顔をそむけた。
ああ、やっぱり顔を合わせるなんて無理……!

と思っていると、突然オリジナルさんが僕の方に来て、
背中に回って両肩を掴んできた。
「いたっ!?」
トラッドさんもリンのオリジナルさんに同じようにされていて、
僕達は無理やり向かい合わせにされた。
「はい、よろしくお願いします、は?」
今度は頭を掴まれて、無理やり下げさせられた。

「よ、よろしくお願いします……」
僕とトラッドさんは、そう言って、それから何とかお互いの顔を見た。
けど、やっぱり目が合ったと分かると緊張して、
僕はすぐに顔をそむけてしまった。

「さ、もう行かなきゃ」
オリジナルさんたちは僕達から離れると、部屋をすぐに出て行ってしまった。
アペンドさんたちは、僕たちの様子を不思議そうな顔で見ていた。
「仲悪いの?」
リンのアペンドさんが呟いた。
「違う違う。行こう」
アペンドさんはそう言って、僕とトラッドさんも動くように促した。
先にリンのアペンドさんの方がトラッドさんの手を引いて、部屋を出て行った。
僕もそれに続いて行こうとすると、アペンドさんが僕の横についてきた。
そして、歩く僕の腕を、肘でついてきた。
「そんなことでいいと思ってるのか」
「……い、いえ」
「そんな調子じゃ、本当にオリジナルたちと俺達でやらなきゃいけなくなるからな」
「……すみません」
「謝られたくはないんだけど。……ちゃんとやれよ」
さっきまでの無気力さとは違って、ちょっと厳しく感じたけど、
言ってることは正しいんだ。……頑張らなきゃ。

早速、僕とトラッドさんは、それぞれベースとギターを持たされた。
「……難しそう」
「心配しなくていいよー! のりでいいからー!」
オリジナルさんが向こうの方で手を振っている。
そんなこと言われてもなぁ、と思っていると、
トラッドさんは真剣な表情で、持っているギターを見つめていた。
……ぼ、僕も、頑張らなきゃ。僕もベースを持つ手に少し力を入れた。
カメラが回り始めると、もう何を気にする余裕もなくなった。

合間に話すことは思いつかなくて、
オリジナルさんたちにポーズの指示を受けてみたりとか、
アペンドさんたちに、ピアノとドラムの動きを先にやってもらったりとかしているうちに、
どんどん撮影は進んでいった。
撮影中は、普段の僕じゃない。カメラの前にいる僕だ。
そう思えば、何度もトラッドさんと目が合うのも、だんだん慣れてきた。
一緒に息を合わせているのが、楽しくなってくる。
そこでカメラが止まると、急に緊張感が崩れて、僕は座り込んでしまったりしてしまったけど、
トラッドさんには優しい顔で見つめられていた。
……やっぱり、素敵な人だ。
一緒に撮影の仕事ができて、本当に嬉しい……。

そして、撮影が終わった。
「お疲れ様でした!」
リンのオリジナルさんが元気よく言って、
それに続いて、僕たちは全員でお疲れ様でした、と頭を下げた。
そして、僕は向かい側のトラッドさんの顔を見た。
トラッドさんは、僕の目を見て、少しうなずいた。

「あれ、ちゃんと向かい合ってる」
リンのアペンドさんが呟くように言うと、トラッドさんははっとして後ろを向いた。
僕も思わず、顔を下に向けた。
「おい、そういうこと言うなよ、もう!」
アペンドさんはこそっとリンのアペンドさんに言って、
オリジナルさん達はというと、へらへら笑っていて、
僕は恥ずかしくなった。多分、トラッドさんも同じだと思う。

また撮影以外で会うときに、顔を見ることはできるのかは、分からないけど、
でも、ちょっとはちゃんと、向き合えるようになれた気がする……。