#099
#パンキッシュさん視点
活動場所を引っ越してきてしばらくしたが、随分と状況が変わっていて驚いている。
昔まだ俺たちの仲間が少なかった頃は、
正直俺に合ってないだろうという仕事が俺にまわってきたぐらいだが、
今では仲間もたくさん増えて、それぞれが適材適所、といった仕事をしている気がする。
……そうでもない、ことはあるけど。
まあ、なにより驚いたのは、アペンドの仕事量だ。
昔アペンドがやってきたはずの頃は、全く姿を見せなかった「謎の存在」だった。
初めて姿を見せたのが、確か藍鉄との共演のときだったけれど、
藍鉄は当時結構仕事を引き受けていた気がする。
藍鉄は謙虚だから、アペンドに教えてたということはなかったと思うけれど、
その後も結局、アペンドとオリジナルが今の場所に移るまでの間、
一番仕事をこなしていたのは実は藍鉄で、俺もその頃にはほとんど仕事は回ってこなかったし、
アペンドも、あとブルームーンなんかも、全然仕事回数は及ばなかったはずだった。
それが。こっちにきてみたら、アペンドがいつの間にか、周りから慕われている。
俺は正直びっくりした。いや、本来、そうであるべきかもしれないけど、
一応俺からしたら、後輩だし? ちょっと複雑だけど? とにかく、びっくりした。
スクールジャージとストレンジダークの二人はあまり気にしていなかったようだけど……。
藍鉄は多分「さすがですね~」なんて思ってるだろうから、びっくりとかいう感じにはならなかっただろう。
遅れてこっちにやってきたブルームーンは、多少俺と同じことを思ったらしく、
いや、それより、藍鉄になれなれしいアペンドに嫉妬してたかもしれない……。
そんな思い出話はさておき、あまり俺たちの仕事で使うことはないのだが、
仕事に行くのに、少し雰囲気を変えるためのアイテムを身に着けていくことがある。
眼鏡とか、鞄とか、帽子とか……。あまり使わないから、存在すら忘れていたけれど、
たまにアペンドが、突然そのアイテムをつけて現れることがある。
そういえば仕事で背中に翼をつけてたこともあったし、アペンド自身はアイテムに親しみがあるかもしれない。
そんなアペンドは、なぜかねこみみのついたカチューシャを持ってうろうろしていた。
うろうろしながら、周りに誰かがいないか、首を伸ばしたりしている。
そんなことしても、誰もいない、……俺以外は。
俺もさっさとアペンドの視界から消えてしまおうと思ったが、気付かれてしまって、
アペンドはカチューシャを持ったまま、俺に近づいてきた。
「何してるんだよ……」
「今、無性にねこみみをだれかにつけたい」
アペンドはそう言いながら、俺の頭上にカチューシャを持った手をのばしてきた。
「やめろ!」
「そう言わずに」
「大体、なんでだよ!」
「かわいい」
「かわいくねーよ!」
なんとか必死で腕をはらいのけて、アペンドに諦めさせたが、
結局、目の前に現れようが、行動自体は「謎の存在」のままかよ、と思ってしまった。
これで慕われているのが納得いかない。何となくブルームーンが目の敵にしたくなるのも、わかる。
「お前、そうやって無理やり人にねこみみをつけさせるのはやめた方がいいぞ」
「……」
俺が言うと、アペンドは拗ねた顔をした。
「ていうか、自分でやってろよ!」
「だって、俺の髪型だと、前からねこみみ見えないし」
「つけるのは嫌じゃねえのかよ!」
「別に」
「……そうか」
確かに、アペンドの前髪だと、見事にねこみみは隠れそうだけど……いや、そういう問題なのか?
と、俺がアペンドの頭を見ていると、
「隙あり!」
「うわああ!」
いつの間にか頭にねこみみカチューシャをはめられてしまった。
「おおー、パンキッシュくんはちゃんとねこみみ見えていいな」
「よくねーよ! この、この!」
俺は無理やりねこみみを外した。
「とりあえずこれは元の場所に戻す。いいな」
「えー、ついでだからそこで尻尾もつけよう」
「誰がやるか!」
俺とアペンドは言い合いながら、ほかのアイテムもしまってある場所に向かった。
「はあ、もう、アペンドの頭で見えるアイテムもあるだろ。ほんと一人でやってろ」
俺はねこみみをしまいながら言った。
「うさみみとうさしっぽ……」
アペンドはいつの間にか、白色のうさみみとペアの尻尾を取り出して、装着していた。
……似合ってねえ。
「まあ、ねこみみより見えるけど」
「おう……」
つけた丸い尻尾を触りながら、アペンドはまだ何か考えているようだった。
「もっともふもふした尻尾がいいなぁ。何かあったかな、
あ、九尾しっぽ」
今度はやたら動く九尾しっぽをとりだして、それを装着すると、色々ポーズを取り始めた。
「あこがれのもふもふ」
「憧れてたのかよ」
「かわいい」
「……わかった、それはもうわかった」
全く考えていることが分からないが、本人が満足しているならどうでもいい。
別に俺もこれ以上付き合う必要もないだろうと思って、そろそろ離れようと思ったが、ふと、気になった。
「さっきからやたら動物系にこだわってないか?」
ねこみみに始まって、うさみみ、うさしっぽ、それで九尾しっぽ。
しかも、もふもふしたのがいい、って言ってたし。
「そうだね」
「何で?」
「なんか、ブルームーンくんが、もふ分が足りないって言ってたから」
「……え?」
「それでいつも、藍鉄くんが妖狐の姿になって尻尾触らせてるって言うから。
ちょっと気の毒だなって思って」
「……ま、まあ、気の毒かもしれないけど、え?」
「俺の衣装じゃもふもふするところないし。つるつるしてるし」
「……うん?」
だめだ、全然分からん。
俺としては、ブルームーンはアペンドを目の敵にしてるし、
アペンドにはできるかぎりじっとしていてほしいと思うんだけど、
といって、アペンドはブルームーンのことは特に何とも思ってないようだし、
むしろ、おそらくは、もうちょっと仲良くなりたいと思っているんだろうけど……。