アペンドを後ろに引き連れて、僕は次のステージへ向かった。
次からクールエリアだけど、無事にやっているかな……。
「アペンドは、しばらくは皆の前に出られないよね。ステージの袖から見つからないように、何か起きないか見張っててくれるかな」
ステージの出入り口について、僕は振り返って言った。
アペンドは相変わらず表情は変えないままだけど、信号のような何かで僕に伝えた。
『了解』
これからしばらく、こんな感じでお互い意思を伝えることになりそうだ。かなり、望んでない疎通の方法だけど、そんなことも言っていられない。これで、離れていても、指示を送れるようになるし、状況を伝えてもらうこともできる。……今だけ、だからね。
ステージに入ると、すでに曲は中盤に差し掛かっているみたいだった。
アペンドがステージの袖に移動して、僕は客席で見守っている皆のところへ向かった。
「戻ってきたか」
パンキッシュくんが僕を見つけて、小さい声で言った。
「うん、お待たせ。調子は?」
「なかなか順調なんじゃないか? やっぱり自分のエレメントだし、ステージを味方につけてる感じがするな」
確かに、ステージの上のライトくんを見ると、今まで何となくあった危なっかしさみたいな雰囲気は消えていた。何ていうか、もっと、余裕、みたいな。
「この調子なら、新しい仲間も来てくれるかな」
「期待できるだろ」
そう話す頃に、交代のタイミングが来た。
「続きを!」
「……分かった」
落ち着いた話し振りで、姿を見たライトくんの顔に少しだけ緊張の色が見えた。
揺れる黄色いネクタイと、すらっとして見える脚と、……片手に手袋と、もう片手に指輪が光る。
「来たか!」
パンキッシュくんが思わず嬉しそうに拳を握っている。
そうだ、パンキッシュくんも認める、まさにかっこいい、の代表。
「おおー、ブルームーンさん!」
ブルームーンくんはスタンドマイクをぱっと握って、歌い出した。
様になってる……これはもう、成功しかないよね。
安心のうちに、曲は終わった。
「初めましての人もいるから、紹介をするね。ブルームーンくんだよ」
「よろしく」
ブルームーンくんのかっこよさの前には何も言葉が出ない……みたいな感じで、新入りのライトくんとラディカルくんが「よろしくお願いします」と言った以外は、皆特に何も声を出さなかった。
ブルームーンくんは、一通り皆を眺めた。
「こっちに来たのはここにいるので全員か?」
「いや、まだ部屋に何人かいるよ」
「なら、藍鉄は部屋か」
あー、言うと思った! 開口一番で藍鉄くんの名前を言うんじゃないかと思ったんだよね!
で、でも、あの状態の藍鉄くんに会わせていいのかなあ……。
こっちで会ってショックを受けてた扇舞くんが、不安げな顔をしているのがわかる。
「あ、藍鉄くんはその、えっと……」
「何だ? こっちに来る前に別れて以来、俺はずっと耐えてきたんだよ。部屋はどこだ、早く案内してくれ」
「……う、うん……」
僕は、止めたとしたら責められそうで、怖くて、びくびくしながらステージの出口へ歩いた。
「俺たちも、ずっとステージ回ってたし、たまには部屋に戻るか……?」
このあと藍鉄くんに会って失神したりしないだろうか。行く末が気になって、パンキッシュくんをはじめ、皆も部屋についてくることになった。
アペンドはとりあえずステージの袖に待機してもらったままで、僕達は皆で部屋に戻った。
「藍鉄はどこだ!」
「ま、まあまあ、落ち着いてよ……」
これじゃ恐喝に近いよ、まるで強盗みたいだよ、と思っていると、偶然にもカオスエレメントの部屋のドアが開いた。
「藍鉄!!」
名前を呼ばれたのに気づいたのかな。藍鉄くんが出てきた。それにしても、ブルームーンくんは来てから何度藍鉄くんの名前を呼んでるんだろう……。
「ブルームーンさん!」
藍鉄くんはブルームーンくんの顔を見ると、表情を明るくした。
「やっと会えたな!」
「わー!」
二人は手を取り合って再会を喜び始めた。僕含め、皆ドン引きだ。
「元気だったか!」
「うん、すごーく元気! また一緒だね!」
「ああ……藍鉄がこんなに俺にフレンドリーなんて……かつてない幸せ……」
初めて見たよ、藍鉄くんのこの状態に戸惑ってない人……というより、ポジティブに捉えすぎっていうか……。
「再会して嬉しそうなところ失礼するよ!」
僕は二人が取り合っている手を無理やり離させて間に入った。
「何するんだ!」
「確認したいんだけどね、ブルームーンくん、藍鉄くんってこんな感じだったっけ?」
引き裂かれていらいらしているブルームーンくんとは対照的に、ぽーっとしている藍鉄くんを、僕は指差して聞いた。
いつもなら、どっちかというと、怯えて迷惑そうな反応をしそうなのに。
「は? しばらく会ってないうちに思いが重なって、やっと心を開いてくれたんだろ?」
「……違うよね……」
「んー?」
藍鉄くんの反応からして、違うと思うんだけど……。
「俺はどんな藍鉄も受け入れるからな!」
なぜブルームーンくんはこんなことを平気で言ってのけるんだろう。
「わ、わかったよ。一応今はエレメントごとで部屋分けてるから、ブルームーンくんはクールの部屋が自室だからね、それだけ言っておくよ……あとはご自由に」
僕は必要事項だけ伝えることにした。
「皆は一旦休憩にしようね。部屋に戻ろうか」
皆にはそう言って、僕は皆が部屋に戻って行くのを見届けることにした。例外で、ブルームーンくんと藍鉄くんは部屋には戻らずに、共用スペースで近況報告をし始めた。
ふと、キュートエレメントのドアの方を見ると、扇舞くんが部屋に入らないまま立っていた。
「……あれ、扇舞くんは戻らないの?」
「えっ、……あ、あの、僕はその」
扇舞くんはそう言いながら目を泳がせたけど、なんとなく分かった。藍鉄くんの様子が気になっているみたいだ。
「あ、別に絶対自室に戻らなきゃいけない訳じゃないけどね! 僕は戻るね。じゃあ」
そうだ、僕はニュートラルの部屋に戻って、何とかアペンドの件をイレイザーくんに対してごまかしておかなきゃいけない。
僕はニュートラルの部屋に入って、ドアを閉じた。