僕達が次のステージに移動すると、ステージの入り口でストレンくんが立っていた。
「次はここだよね?」
「うん。戻ってきてくれたんだね」
僕が言うと、ストレンくんは、まあね、みたいな顔をしてから、
「僕もステージ立ちたいんだよね、だからついてきたんだし」
と、戻ってきた理由をはっきり言った。
「ちょうどいいや。今はライトくんが苦戦してるからアペンドもステージ立つし、アペンドが交代のときは誰も来ないだろうから、そのときストレンくんが出られるんじゃないかな」
僕が言うと、
「ほんとだね? 嘘じゃないね?」
まるで脅しにも似た笑顔で、ストレンくんは僕に顔を近づけてきた。
「……確約はできないけど」
「絶対だからね!」
絶対とは言い切れないけど、多分出番はあるでしょ……ということで、そこは適当にうなずいて、ステージに入ることにした。
ステージに入った途端に、何だか寒気がした。
でも、他の皆は特に何も思わなかったみたいで、気のせいだったのかな、と僕は思い直した。
早速ライトくんがいつも通りにステージに立ってくれる。曲もいつものように始まる。やっぱり少し苦戦しながらも、なんとかライトくんはパフォーマンスを続けている。
でも、そろそろ曲も中盤というところに来て、ライトくんの様子がおかしいことに気づいた。
「ライトくん……?」
見ているラディカルくんも心配そうな顔をしていて、僕の気のせいじゃないのは確定した。
鳴っている曲とライトくんの動きが、少しずれている。
「ああ、うるせえ……」
そろそろ交代のタイミングに近づいてきて、ライトくんがそう呟いたのが聞こえた。
「ねえっ、誰も来てないならこっちから誰か行くよ?」
僕は呼び掛けた。でも、ライトくんがこっちを向かない。
「あれ?」
「……聞こえてない?」
うるさい、って言ったってことは、僕達には聞こえていない何かがライトくんには聞こえていて、そのせいで僕の呼び掛けも聞こえないってことかもしれない。
結局、最後までライトくんがステージにいたままで曲が終わった。終わった途端に、ライトくんは耳を塞いでステージに座り込んだ。
「大丈夫!?」
僕は言いながら、ステージに上がろうと階段かけ上がった。すると、その僕の前にアペンドが出てきて、ステージへの階段の途中へ押し戻してきた。
「なに、どうして」
アペンドの顔を見ると、やっぱり何も言わないけど、多分、来るなっていうことなんだろう。
アペンドは今度、座り込んでいるライトくんへ近寄っていって、ライトくんの頭に手をかざすようにした。
何か見えないものを掴んでいるようにも見える。それを持ち上げるようにしてから、下に、思い切り振り下ろした。
きんきんするような音がしたと同時に、床で緑に発光した何かが砕け散ったのが見えた。
「し、静かになった……」
ライトくんが耳から手を離して、アペンドを見上げた。
「あ、ありがと……」
アペンドはそう言われて、何も答えずに、ライトくんの前に立った。この曲の初めの立ち位置だ。さっさと始めたいってことだろうか。
「ライトくん、ここはアペンドに任せて。一回こっちに戻ってきて」
僕は階段から呼び掛けて、ライトくんは慌ててこっちに走ってきた。
ライトくんがステージから降りると、もう曲が始まって、アペンドがパフォーマンスを始めた。せっかちというか、本当に必要なことだけやろうとしてる、っていうか……。
「ライトくん、さっきは大丈夫だったの?」
僕が聞くと、ライトくんは顔を歪ませた。
「曲の途中で急に、別の音が耳を塞ぐ感じで鳴り始めて……今もちょっと忘れきれない」
「まさか交代もできないなんてね。……でも、そういうこともあるよね。仕方ないよね」
「ああ、その分はアペンドさんが頑張ってくれるし……」
ライトくんはアペンドを見て、微笑んだ。
お約束通り、今回はアペンドとストレンくんが交代した。そして、アペンドは出番が終わるとまたステージ袖へ引っ込んでいった。
「ここに来た意味をやっと果たせたよね」
ステージを終えたストレンくんはため息をつきながらステージから降りてきた。
「ステージも成功したし、よかったよかった。さすがストレンくん」
「でしょー」
僕はストレンくんのご機嫌をとりつつ、ステージの邪魔のことを気にしていた。次は大丈夫かな……。
今度のステージの曲は僕のパートがある曲だ。つまり、新しい仲間が期待できる。さっきの苦戦があったから僕は心配したんだけど、ライトくんが、「ここでこそ俺の特技を発揮しなきゃな!」って、頼もしく言ってくれたから、無理だけはしないで、と言って任せた。
さて、この曲は3人の曲だから、他に二人ステージに立ってもらうわけだけど……ここは僕の独断で。
「ラディカルくんとトムくん、ライトくんと一緒にステージ立とっか」
「!!」
突然の指名に、二人がびっくりしている。
「せせせ先輩を差し置いて僕がす……」
「まじかにゃー!」
ラディカルくんは遠慮ぎみで、トムくんは前のめりぎみだ。その違いに、二人の間にいたスターマインくんが苦笑いしている。すっかりこの二人の近くにいてあげるポジションになっている気もする。特にラディカルくんがスターマインくんを慕っているけど、トムくんも同行してからは、スターマインくんは二人のお世話係みたいだ。
「ライトくんとラディカルくんとトムくんは皆ここの新しい仲間だもんね。新鮮な気持ちでよろしく!」
という、僕の独断。
「おう!」
「はい!」
「にゃ!」
3人はそれぞれ返事をすると、ステージに上がっていった。
楽しげな曲に合わせて、3人の息はぴったりだ。ずっとライトくんばかりステージに立ってもらってて、ラディカルくんやトムくんには出番をあげられなかったし、これでちょっとはよかったかな、って思う。
さて、今度は交代もできそうだ。
「あっ、誰か来てるにゃ!」
見たことのない格好の僕の姿が見えた。
「こっちだよー!」
と、呼ばれて走ってこようとしたその僕が、何かにぶつかった。
「え?」
ライトくんが迎えに行こうと近寄ると、今度はライトくんが何かにぶつかった。
「えっ、なんか壁がある!」
多分見えない透明な壁があるみたいで、そのせいで来れないみたいだ。双方から壁を叩いてみるけど、状況は変わらない。
「これもステージの邪魔ってやつじゃ……」
水着くんが言って、そうか、と皆は諦めた表情になった。
結局、曲が終わるまで交代はできず、新しい仲間のはずの僕も消えてしまった。
「残念だったね……」
とりあえず、ステージの3人を呼び戻して、そう声をかけた。
「仕方ないよな。また呼んでやるよ」
ライトくんはそう言ってから、ステージを振り返った。
「オリジナルさん、もうアペンドさんがいる」
「うわ、ほんとだ。待たせちゃいけないよね……」
確かに、ステージにはアペンドがもう立っていて、僕の方に目線を向けていた。
「さ、あと二人はどうしようね……」
僕が皆を一通り見ると、イレイザーくんと目があった。
「あっ、イレイザーくんいきたい?」
「そうではなく。アペンドさん、オリジナルさんのことをじっと見ているから、オリジナルさんが行ったらどうかと」
「へ?」
何でイレイザーくんはそういう解釈をしちゃうんだろう……それで周りも「そうだ、違いない」みたいな空気になっちゃうし、参ったなあ。
「……はあ。仕方ないなあ。パンキッシュくん、若くないもの同士で行こうか」
「はあっ? 出るのは大歓迎だけど若くないってなんだ!」
僕がパンキッシュくんの肩をぽんと叩くと、パンキッシュくんにきれられちゃった。
「新入り組の後は若くない組ってことでちょうどいいじゃん。いけいけ」
水着くんがにやにやしてパンキッシュくんを見ている。
「お前の方が若くない組だろ!」
「えーっ、いま僕日焼けモードだから新しい組だよ~? ふふーん、参ったか!」
「都合いいこと言いやがって。ふんっ、でも出れる方がいいし!」
パンキッシュくんはそう言いながら、どかどか足音を立ててステージに上がっていった。
「えーと、交代はスターマインくんにお願いしておくね。これは僕の独断」
そう言って、僕もステージに向かった。
「わかりましたー!」
背中で、スターマインくんの返事を聞いた。
ステージ上のアペンドは、曲が始まる前はやっぱり無表情だ。
「真剣だな」
何も言葉を出さないアペンドにパンキッシュくんは言って、パンキッシュくんは準備体制に入る。真剣って訳じゃないけど、と思いながらも、僕も準備体制に入った。
曲が始まって、アペンドの表情ががらっと変わった。ステージ上で見ると、いっそう不思議だ……。ちょっと視線を合わせると、にこっとしてこっちを見ていて、……そういう予定のパフォーマンスなだけ、なんだけど。決まりきった演出通りの顔しかしていない。でもそんなのはぱっと見じゃわからない。
曲は順調に進んだ。だれも来ていないみたいだから、スターマインくんに交代だ。スターマインくんを僕が手招きして、ステージに来てもらった。
「代わりますね、アペンドさん」
スターマインくんが言う。でも、アペンドは何も言わずに、またさっきと同じように、ステージの袖へ歩いていった。
「……」
スターマインくんが、寂しそうな顔をしたのが見えた。
「あいつは……」
パンキッシュくんの小さい声が聞こえた。
「最後まで行くよっ!」
僕はちょっとだけ強めに二人に言って、振り向かせた。二人はうなずいて、曲の最後まで一緒に踊ってくれた。
「頑張ったねー」
僕は曲が終わってから、すぐにそう言いながら客席へ降りた。
「……あの、オリジナルさん」
僕の後ろからついてきていたスターマインくんが言った。
「ん?」
僕は振り返って笑ってみて、僕をまるで睨んで見える、スターマインくんとパンキッシュくんの表情が目に飛び込んできた。
「……アペンドさん、あんなでしたか」
スターマインくんの声は、震えて聞こえたけど、僕には怒っているようにも聞こえた。
「あんな、って?」
「話しかけて、何も答えないような人でしたかって」
「えっ? だってほら、今は恥ずかしがってるから……」
「恥ずかしがっててああなるのか?」
今度はパンキッシュくんに言われた。
「大体恥ずかしがってるやつがステージになんか立てるかよ。あんな堂々と」
「アペンドはそういうやつだから……僕だって分かんないっていうかさあ」
僕が言うと、スターマインくんもパンキッシュくんも諦めた顔をした。「僕もわからない」なら、これ以上なんとも言えないはず、なんだ。
「……なら、オリジナルは心配してないのか?」
今度はそう問われて、少し冷や汗をかいた。
「大丈夫そうでしょ、見たでしょ、近くで」
「いま聞いたのはアペンドの話じゃなくてお前の話なんだよ。平気なのかよ」
「な、何で僕の話なの……」
僕がアペンドを部屋につれていったときは、むしろあまり触れないようにしてくれていたと思っていたのに。
「あまり平気そうじゃないな。もしかして喧嘩したとか? だからアペンドは誰とも話そうとしてないとか、そういうやつ?」
「違うよ、喧嘩なんかしてないし、僕と喧嘩したところで誰とも話さなくなるとは限らないし!」
ああ、もう、面倒だな。
「放っておいてくれる。あいつも僕も」
僕が言うと、パンキッシュくんはスターマインくんの手を引いて離れた。
「分かるけどさ、何かおかしく見えるのは」
「前いたところでは、ずっと隣の部屋だったし、毎日何かは話してたんです、だから、あんなの初めてで……」
そう話している二人の声も聞こえない振りをして、僕は誰よりも早くステージを出た。