交差#25「本音と復帰」 - 5/5

「オリジナルさん、そろそろ次にいきませんか!」
水着くんと話していたら、結構時間も経っていたみたいで、エッジくんが僕を呼んだ。
「あっ、そうだね。行こっか!」
僕は水着くんと一緒に、囲まれているアペンドの方へ駆け寄った。すると、イレイザーくんとエッジくんが、僕の両横にやってきた。
「え? なに?」
「よーし行くぞー!」
僕が戸惑っているのと同時に、固まっていた皆のうち、ライトくんが次のステージを目指してステージの出口へ歩き始めて、それに皆が続いていく。それで、水着くんも先頭についていくし、僕は両横に挟まれたまま後ろをついていく形になった。
「えっ、何で二人は僕を挟んでるの」
僕はイレイザーくんとエッジくんをかわるがわる見たけど、二人はなんだか微かに嬉しそうな顔のまま、僕の足を進めさせるように歩く。……それは、皆の中では後ろを歩くアペンドに近付くように仕向けているみたいだった。
「オリジナルさん、あのあと、まだアペンドさんと話してなさそうだったので」
イレイザーくんが言って、そういうつもりだったんだ、と僕は納得した。
「あ、あのね、僕はアペンドとは倒れたあとも喋ったから、皆ほどはそこまで……」
「いえ、おかまいなく」
「何がおかまいなくなの!?」
「イレイザーのささやかな気遣いなので受け取ってくださーい!」
「よくわかんないよ!」
また、アペンドと仲良くしている思い込みで謎の気遣いをされてる……。でも、やっぱり澄んだ目で見られている気がして、僕は仕方なくアペンドの横を歩くことにした。
「……合流だね」
僕は、信号で伝える必要もなくなった言葉をそのまま声に出した。
「……うん」
アペンドはさっきの流れを受けたせいもあって、いつもよりかなり素直に答えた。
「次はまた、ライトくんの番だから、俺は見守る番だし……皆と」
そうだな、アペンドからしたら、ここしばらくは一人きりで様子を隠れて見ていたんだから、これからは、「皆と」一緒なんだ。
「そうだね、一緒だ」
僕はアペンドに言って、表情を見た。あの冷たさはもうない。……よかった。本当に。
僕たちを隣に並ばせるために歩いていたエッジくんとイレイザーくんは、後ろからそんな僕たちを見ていた。振り返ってみると、二人とも、まだなんだか嬉しそうな顔のままでいる。
「……あの……」
僕が言うと、エッジくんが少し驚いた顔に変わった。
「あっ、見すぎでしたか、すみません! 見られてちゃ喋れないですよね! イレイザー、そろそろ僕らは離れよっ」
「あ、ああ。すまない、気が利かなくて」
イレイザーくんは腕を引っ張られて、そんなことを言いながら僕たちに頭を下げていった。
「あっ、別に邪魔とかじゃなくてね? ……ああ、遅かったかな」
アペンドがそう言っているうちに、二人は先を急いでいる先頭の方へ走っていってしまった。
そうしているうちにも次のステージに着いて、僕とアペンドが最後に客席にたどり着いた。
「ビューティエリアもいよいよ最後だから! またラディカルくんとトムくんと俺で頑張ろうかなって!」
既に、ライトくんはラディカルくんとトムくんを横に従えて、ステージの上に立っていた。
「いいんじゃないかな」
僕が言うと、ライトくんは嬉しそうな顔をした。
「よし、許可も得たな、頑張ろうぜ!」
「うん!」
「にゃ!」
他の皆も多分認めてるし、そのままはじめてもらうことにした。
「……邪魔の気配もないみたいだから、大丈夫だと思う」
アペンドもそう言って、ステージの3人を見守った。

……確かに、照明が落ちたりとか、そういうのはない。けど、明らかに、ひしひし感じる雰囲気がある。……なんか、いまいちだ。
ステージの3人の頑張りを否定したくないからなにも言えないんだけど、圧倒的にビューティさが足りない……これは仮に僕があそこに立っても同じだ。
よく考えたら、3人とも別のエレメントの代表みたいなものだから、違和感あっても仕方ない、よね……。

それでも精一杯のパフォーマンスのお陰で、交代のタイミングまでやってきた。
ステージ袖に、誰か来ているみたい。
「鳳月だ!」
ステージ袖を覗きこんだ鶴くんが言った。
ステージにいる3人は、その鳳月くんを見て、かなり驚いた顔をしている。無理はないよね、まさか僕とは思えない外見だし……。
「あ、あの、交代して……くれるのか?」
ライトくんが、鳳月くんにかなり動揺している。鳳月くんは鳳月くんで、見たことのない3人を目の前に、ちょっと戸惑って見える。
「あなたと、交代すればいい?」
鳳月くんがそう言って、確かに声は僕なんだというのはわかってもらえたみたいだ。
「うん、俺と。頼んだ」
ライトくんはそう言いながらステージの袖に一旦はけていった。
「頑張りましょう」
ステージの残りの二人に鳳月くんは言って、曲の終わりまでを始めた。
鳳月くんのエレメントは、やっぱりビューティなんだよね。きっとおかげで、さっきまでの「何か合わない」感じは、かなり和らいだ気がする。
……それでも、曲を終えて満足の行く状態までは、さすがに到達はできなかった。

「……せっかく来てくれたけど……」
僕が言うと、ステージの上の鳳月くんはうなずいた。
「またの機会に」
今までこうしてステージがうまくいかなかったときと同じように、鳳月くんも光に包まれると、そこから消えてしまった。
「……」
鶴くんは鳳月くんのいた場所を見つめていた。
「大丈夫、今度呼ぶときこそは、成功させよう。今は、ここのステージで、なんとか成功させなきゃいけないから……」
「……待ちます」
せっかく、仲間が来たときにこうして失敗しちゃうのは、やっぱり寂しいけど……。
「ここは、あまり一筋縄ではいかないかもしれないな。もう少し、作戦を練った方がいいか……」
この流れだと次にリベンジするアペンドが、そう呟きながら、順に僕達を見ていった。
「ビューティエリアの最後だし、やっぱりビューティエレメントの人がステージにいた方がいいと思うけど、……そうだよな?」
アペンドが僕に聞いてきた。
「うん、さっきのステージ見る感じだと、それの方がいいかもね……」
僕も皆を一通り眺めたけど、……ビューティエレメントの人、一人もいない。
水着くんは日焼け治しちゃってるし、あとは皆部屋にいるんだよね……。
「……アヤサキくん呼んできますか?」
扇舞くんが僕とアペンドの方を見て言った。
「え、呼んだら来てくれるの?」
「部屋に戻ってたとき、僕と鶴くんはアヤサキくんと話してたし、……来てくれそうだよね」
「よく考えたらそうだな、僕達だけこっち来てるけど、ついてきててもいいのに」
「せっかく、ビューティエリアだもんね、今ぐらい来てもらおっか」
こうして一人はアヤサキくんに決まって、あと、一人だけど。
「ランサーくんとブレイブくんは?」
「あの二人は出掛けました」
「えー、それじゃあ……あ、妖狐くんは……?」
思い出して僕が言うと、扇舞くんと鶴くんが藍鉄くんを見た。
「藍鉄くん、変身ってできる?」
「え、変身? 妖狐くんは部屋にいるんじゃ……」
「それは色々あって! それより藍鉄くん、どう?」
僕の疑問はよそに、扇舞くんと鶴くんが、藍鉄くんの前に寄って聞いている。ど、どういうことだろ。
「……」
アペンドが、藍鉄くんを見ている。……『調べて』いる。
「……妖狐くん、いるんだね」
アペンドは静かに藍鉄くんに言った。
「……います。必要なら……仕方ないです」
藍鉄くんは少し声を震わせたけど、何だか決意を持っているようにも見えた。
「なら、決定だね。僕、アヤサキくんを呼んでくるから」
鶴くんがそう言って、ステージの外に出ていった。
「……妖狐くんがいるとか変身とか、どういうことだ?」
少し沈黙のあとに、ライトくんが、首を傾げた。一部の人を除いて、同じように思ってる人ばかりだと思う。もちろん、僕もだ。アペンドは多分調べてしまったから、ある程度はもう分かってしまっているだろうけど、でも、大半は全く何が起きているかわからない。
「……こっちにきて、妖狐くんと藍鉄くんは、別々にいましたけど、今は、元々の通り一緒の体にいるんです。だから、変身すれば藍鉄くんが妖狐くんになる、って状態です」
扇舞くんが、藍鉄くんの代わりに話した。……扇舞くんが鶴くんをつれてしばらくいなかった間に、藍鉄くんが元に戻ったんだから、その事情を知っているんだ。僕は僕で色々あったけど、僕の知らないところで何かあったんだ。
「事情は……話すと、長いですから、そうだってことに、してください。ただ……」
藍鉄くんも、自分の言葉で説明しようと、顔をあげて僕たちを見つめた。
「今まで、妖狐になることは、一部の人にしか知られないようにしていました。僕はあの姿になるのが怖かったんです。……でも、あの姿も、僕です。隠さず、僕が、僕を認めないといけない……ので。
あらためまして、妖狐のことも、よろしく、お願いします」
藍鉄くんは深々と頭を下げた。そして、その頭が上がるにつれて、徐々に服の色が変わっていった。
頭を上げきった藍鉄くんの頭とお尻には、それぞれ耳と尻尾がついた。
「にゃー!」
……そう声をあげたのはトムくんだった。かなり驚いているけど、よく考えたらそうだよね。あのいつもと違う感じの藍鉄くんしか知らなくて、ずっと遊んでもらってたはずが、この変わりようなんだもん。この中の誰よりもびっくりしているに違いない。
「な、何ですか、大声出して」
藍鉄くんあらため、妖狐くんが、トムくんに若干迷惑そうな声色で言うと、トムくんは妖狐くんに駆け寄った。そして、さっき出てきた妖狐くんの耳を掴んだ。
「いたっ、……な、何するんですか!」
「ほっ、本物? あったかいにゃ!」
「本物です! 離してください!」
妖狐くんは怒った顔でトムくんの腕を掴んで、耳から手を離させた。
「……ほ、本当に藍鉄くんが……変身……したの……?」
今度、トムくんは好奇心の顔から、急に寂しそうな顔に変わった。
「目の前で見たでしょう。そうです。それに、同じ体に戻る前は、藍鉄の方が少々自分を見失っていたようなので。あなたには印象が違って見えるかもしれませんが、諦めてください」
妖狐くんは藍鉄くんと変わらない口調で、でも藍鉄くんに比べるとはっきりと、そう話した。
「……もう僕とは遊んでくれないのかにゃ……」
トムくんはそれを気にしていたみたいだ。
「いつまでもあなたとばかり遊んでいられませんから。迷惑も考えた方がいいですよ」
それに対する妖狐くんの答えは現実的だった。
「ひどいにゃー! 冷たいにゃ!」
「……僕は藍鉄であって藍鉄じゃないですから、藍鉄に戻ったときに遊んであげないこともないんじゃないですか」
「ほんとにゃ!?」
さっきからトムくんの表情がころころ変わっている。そして、ちょっと嬉しそうになると、妖狐くんはそれにいらっとした表情を見せている。
「……あまり調子に乗ると僕がつっぱねますよ。覚えておいてくださいね」
「こ、こわいにゃ……早く戻ってほしいにゃ……」
一見同じ動物系にも見えなくない二人なのに、妖狐くんが結構厳しい雰囲気で、トムくんは若干怯えぎみだ。僕も妖狐くんがこんなに目の前で話しているのを見るのは初めてかもしれないけど、……口調だけ丁寧で、言うことは結構はっきりしているというか、厳しいというか……本音を言ってる、のかもしれない。
そんなやりとりを見ていたら、足音が聞こえてきた。……鶴くんがアヤサキくんを連れてきたんだ。
「あっ、いらっしゃい」
僕が言うと、アヤサキくんは軽くうなずいた。そして、妖狐くんを見た。
「……ほんとに変身したんだな」
アヤサキくんが言うと、妖狐くんはアヤサキくんから目をそらしながらもうなずいた。
「……藍鉄が、皆によろしくって言った以上、出ないわけにはいかないですから」
これで、ビューティエレメントの二人が来てくれたわけだから、準備ができた。
「二人とも、力を貸してほしいんだ。俺じゃ力不足だから……よろしく」
アペンドは妖狐くんとアヤサキくんに言った。
「今までこっちに来てなかったから……力になれれば」
アヤサキくんはそう言ってアペンドに一歩近づいた。
「……まだ引きずってますか。力不足なわけないでしょう」
妖狐くんはアペンドを少し睨み気味にしてそう言った。アペンドはちょっと驚いたみたいな顔をした。
「……あ、ああ。僕にはこういう言い方しかできないんです。藍鉄は、あなたがステージに立っているのを見たくてここに来たんですから、……自信を持てって、ことですよ」
妖狐くんは、なんとか言葉をひねり出すようにして言い直した。
「……まさか励まされるなんてね。俺も、精一杯やるから、……うん、頑張ろうね」
アペンドは返して、それから、3人はステージの方へ上がっていった。

「目に見えた邪魔はないけど、強いていうなら、ここに俺みたいな不適合なエレメントのやつが立ってることを、この場が受け入れてくれない……それがここの『邪魔』なんだな」
ステージに上がって一通り位置を確認したアペンドはそう言った。
「……なら、そんなのぶち壊してやるから。俺にはせっかく来てくれた二人もついてるんだ、俺だって釣り合うようにやって見せる」
自信を持てって言われたからかな、アペンドは妙に自信ありげな表情で初めの位置についた。
そして曲は始まった。
「やっぱり雰囲気変わったなあ。すげー」
「こ、これがビューティかあ」
「あいつこわいけどすごいにゃ……」
さっきステージに立ったライトくん、それとラディカルくんとトムくんが、特に食い入るようにステージの上の3人を見ている。
「呼んで正解だったなあ。アヤサキくんも妖狐くんも」
鶴くんと扇舞くんも、安心した眼差しで見守っている。
このままいけば恒例の交代タイムもありそうだけど、そろそろ誰かが出る準備をしなきゃいけないかな、と、僕は客席側で見ている皆を横目で確認していた。
けど、交代のタイミングで、アペンドは舞台袖を見た。
「だ、誰か来てる?」
「来てるよ!」
袖から声が聞こえてきた。
「あっ、スタエナくん! 俺と交代だよ、こっち!」
「はーい!」
元気よく現れたのはスタエナくんだった。
「あとは頼んだ!」
アペンドはそそくさと舞台袖に隠れた。そこから曲の終わりまでは待機だ。
「え、なんかこれ大人っぽくやるやつ?」
ステージに放り込まれたスタエナくんは、ステージに残っているアヤサキくんと妖狐くんに聞いた。
「……そうだな」
「……できる範囲で」
アヤサキくんと妖狐くんは静かに答えた。
「て、適当に合わせるね……」
二人の静かさに少し勢いを削がれたスタエナくんは、精一杯雰囲気を合わせて曲の最後までパフォーマンスを続けた。結果、ステージは成功、になった。

「新しく来てくれたのは、スタエナくん。正確にはスタイリッシュエナジーL、だよ」
久々の新しい仲間を、皆で迎えた。
「得意なのは走ること! 普段はじっとしてられないから走ってます! よろしくね!」
スタエナくんは初めて会う人たちに自己紹介した。……そうなんだよね、スタエナくん、結構な確率でいないこと多いんだけど……走ってるらしい。
「まさか俺の番で新しく来てくれるなんて思ってなかった……」
ステージから降りてきたアヤサキくんと妖狐くんの横で、アペンドが小さい声で言った。
「やったな!」
ライトくんがアペンドの腕をぽんと叩いている。
「うん、ほんとよかった……」
失敗も続いて、皆には励まされていたところで、ステージを成功させた上に、新しく呼べたんだから、取り返した、って感じだよね。
「アペンドさんとスタエナさん、よく見たら二人ともラインが発光してるところが似てるね」
ラディカルくんが二人の服を見て言った。言われてみれば……。アペンドとスタエナくんも顔を見合わせて、確かに、ってお互いの発光しているところを見ている。
「発光仲間に導かれて、ってことかにゃー?」
「さ、さすがにそれは偶然だと思うよ……」
トムくんの発言に、アペンドは苦笑いしていた。

さて、これで残すところはカオスエリアのステージだけになった。本当にここは、色々大変だったな……。
「もう僕は戻った方がいいですね」
妖狐くんはそう言って、誰の答えを聞くこともなく目を閉じると、藍鉄くんの姿に一瞬で戻った。
「……用が済んだからって、はやいな……」
横にいたアヤサキくんがため息をついている。
「……ぶ、無事終わりましたね」
藍鉄くんはアヤサキくんの方を向いて、少し震えた声で言った。
「そうだな、お互い、お疲れ様」
「……はい」
アヤサキくんは優しく言って、藍鉄くんの顔には安堵が見えた。
「藍鉄くん!」
扇舞くんと鶴くんが駆け寄っていって、そこでまた話を始めている。
……藍鉄くんが元に戻った事情は、また追々、聞けたらいいけど、あの様子なら、僕が心配しなくたっていい気がする。
それと、もうひとつの心配事も、解決したんだ。僕は表情を取り戻したアペンドを見て、嬉しさのため息をついた。
「皆ー、一回部屋に戻ろっかー!」
僕は皆にそう呼び掛けた。