リンは、あまり勉強が得意ではない自覚がある。赤点を取ってしまうほど頭が悪いわけではないが、クラスの平均ぐらい……といったところだ。ちょっとアイドルの仕事で忙しくなると、そっちに気を取られて成績が下がりそうだ。そうならないように頑張らなければならないのは、分かってはいる。とはいっても、そう簡単に頑張れるわけないよね、と、諦めているところはある。
そんなリンにも得意な科目がある。それはもちろん、音楽だ。
ソプラノは主旋律であることが多いから、簡単に音取りをして歌い始めることができるが、アルトはコーラスの音程を覚えて歌う必要があるから、歌の得意な人たちはアルトに多く回される。リンも、そういう理由でアルトの方にいる。そして、音取りをするとき、ピアノでメロディーを弾く役割は、自然とリンに回ってきている。
同様に、レンも男声パートのメロディーを弾いて音取りをする。他にそれができる人もいないので、毎回やっている。音楽の担当の先生も、リンとレンが音取りをやってくれるのは助かる、という状態だ。
音取りが終わって皆で合わせるときも、アルトパートのメンバーはリンの歌声を頼りにしているし、男声パートのメンバーはレンの歌声を頼りにしている。
「ちょっと分かんなくなったときはリンちゃんの声聴いてる!」
「助かる!」
「えへへ、よかった」
歌を仕事にしてるし、これぐらいはね、というのはあるけれど、それでもこうやって頼りにされると、照れるし、嬉しい。やっぱり、音楽の授業のときが一番楽しいな、と、リンは思っている。
「ここ覚えられないんだけど……どうだったっけ」
「ここ?」
レンは、すぐ隣に立っている男子に音程を聞かれた。レンは、小さい声で聞かれた場所を歌って見せる。
「おおー……」
「ちょっと覚えにくいよね。一緒に歌ってみようか」
「うん、お願い」
今度は、一緒に歌ってみる。
「あ、なんか分かった気がする」
「えー! じゃあここは?」
「その後こっちも!」
周辺の男子にどんどん聞かれ、ひっぱりだこである。
「ここは半音下がっていくところだから、音が当たりにくいけど、丁寧に。……ここはそうだな……高いから、力むと音が外れる。意外とそんなに高くないから」
レンの教え方は的確で、かつ分かりやすい。離れた位置のレンの声をなんとなく聞きながら、リンはいつも思う。
「ここってどうだったっけー」
「うーん、ここ? そうだなー」
リンも、近くの同じアルトパートの女子に聞かれるが、とりあえず歌って見せるのが精一杯だ。
「何かコツとかある?」
「ええー……頑張って覚える?」
「あははは、そうだよね」
なんというか、リンは感覚でしか伝えられない。教えたとして、結局は本人が感覚を掴めるかどうかだと思うが、その感覚を掴むまでの助言ができるのかどうか……そこが、違う。
レンと一緒にボイストレーニングをしているときも、レンがくれる助言で気づくことが多い。本当に、説明がうまいのだ。……仕事では、相棒だし、同じ暮らしをしているはずなのに、どうしてこんなに違うんだろう? リンは疑問に思いつつ、それでも、そんなレンが誇りに思えている。