世界の修復者と私のボイストレーナー (3)人と一緒に歌うこと - 3/5

 欠黒象の出現は時間を選ばない。やっと授業が終わって放課後だ、というときに、リンの端末が鳴った。
 続けて、ミクから電話がかかってくる。それぞれの学校は離れているから、学校にいるときは、こうして電話でやりとりをすることになる。
「欠黒象、出たね」
「はい。……私の方から近そうなので、とりあえず急いで行きます」
「分かった。私も一応向かうから」
 手短に話して、通話を終える。
「欠黒象?」
「うん」
 通話を終えたリンに、クラスメイトの女子が聞いてくる。
「行ってくるね! ばいばい!」
 リンは鞄をさっと肩にかけると、手を振ってすぐに教室を出た。
「行ってらっしゃーい」
 そのリンの後ろ姿に、教室の人たちは手を振る。
 毎回大変そうだ、と思いつつも、もはやこれが日常だ。世界を守ってくれる修復者であるリンを、日常的に支えるのがクラスメイトだ……という気持ちが、皆にあるのかないのかは分からないが、いつもリンは温かく見送られている。
「授業終わってすぐか。大変そうだね、リンちゃんも」
 リンが出ていった教室の出口を見ていたレンに、クラスメイトの男子が話しかけてくる。
「そうだね」
 レンは、穏やかに答える。
「あの……修復者ってさ、誰でもなれるわけじゃないんだっけ?」
「うん、歌声に特殊な力がないとだめで」
「なるほどなあ、リンちゃんが修復者なのって、アイドルやるだけの歌声の持ち主だから?」
「……まあ、それもあるだろうね。大体、修復者になれる歌声の持ち主は、歌がうまいものだし」
 レンは、リンの相方として、知っている範囲のことを答える。修復者が欠黒象を消せて、世界を守っている、というのは、大抵皆知っているが、その能力のこと自体については、よく知らない人が多い。修復者自身も、たまたま能力があることが分かって、普通の人にはできないから善意で頑張っているという状態だ。今のところの傾向としては、欠黒象に効くのは歌の力で、修復者は大抵歌がうまい。ミクやリンも、その例だ。
「レンは修復者じゃないのか?」
「俺は違うよ」
「レンも歌うまいのにな」
「修復者だったら歌がうまいは成り立つけど、その逆は成り立たないからさ……」
「……リンちゃんと双子だよな? 血とかそういうのじゃないんだ」
「違うみたいなんだよな……」
 レンは、少し困った顔で笑って見せる。相手の男子は、そうなんだ、と思いつつ、そのレンの笑顔にはっとする。
「……なんか、やっぱりレンのそういう顔、アイドルの顔だよな」
「……アイドルの顔ってなんだよ……」
 レンがむっとして見せると、いやだってアイドルの顔だし、などと意味の分からないことを繰り返して、相手の男子は笑った。
「俺はそろそろ帰ろうかな」
「おう、じゃあまた明日な」
 ぽつぽつとクラスメイトが帰っていく。放課後の教室はいつも通りの空気だった。