世界の修復者と私のボイストレーナー (4)リンが仕事の日 - 2/4

 午前の仕事を終えて、リンが事務所の食堂へ向かうと、入り口でレンとはち合わせた。
「あっ」
 軽く頭を下げるように、レンがうなずく。同じタイミングになったようだ。そのまま、リンはレンと一緒にごはんを食べることにした。
 今日の日替わりランチはハンバーグだ。
「いただきます」
 丁寧に手を合わせるレンにならい、リンも手を合わせる。そして、しばらく静かに食べ進めた。
「……仕事、どうだった?」
 ごはんも終盤に差し掛かってようやく、レンが口を開いた。別に、喋ってもよかったのだが、生真面目で私語を慎みそうなレンの前で、リンはなんとなく言葉を発することができていなかった。だから、やっと気兼ねなく声を出せる。
「好きな感じの曲だった」
「ふーん、よかったな」
「デモ聞いただけで、あとは歌い方のイメージとか説明されたぐらいなんだけど。まあ、そこはいつも通りだったかな」
「最初は大抵そんなもんか」
「うん。だから余裕でできると思――」
 リンはそう言いかけて、口をつぐんだ。レンの前でこんなことを言ったら怒られそう、そう思って。
「余裕」
 案の定、レンが単語を繰り返した。
「余裕かもしれないけど。歌一つ一つにちゃんと向き合うのが大事だろ」
「……レンはいつもそうやって」
「俺はいつもそうだよ。リンも分かってんだろ」
 真面目なことは、よく知っている。こうやって、気が緩んだようなことを言うと、むっとして叱ってくるのも。レンの言っていることは何も間違ってはいなくて、常に正しい。リンにとってはそれが、真面目すぎるだけだ。
「……分かってるよ、それなりにやれるだけの練習はするつもりだし」
「つもり?」
 リンは弁解してみるが、レンは細かい単語に反応してくる。
「……何も練習せずに歌えるわけないし、やることはやるもん」
「……まあ、それはそうだな」
 レンはむっとした顔のまま、横を向いた。目線の先の外は晴れている。リンは、そんなレンからは目線を外して、残りのハンバーグを口に運んだ。レンはもう食べ終わっていて、ずっと外を見ている。
「レン、昼からもまたレッスン室でしょ」
「うん」
 そっぽを向いたままのレンの横顔に、リンは聞く。レンはそのまま返事をする。
「私も昼からはレッスン室に行きたいんだけど、……レッスン室一緒でいい?」
 なんだか機嫌もよくなさそうなレンに、一緒に練習したいというのは言いづらかったが、リンはおそるおそる聞いてみる。
「別に、断りはなくても」
 レンは、そっとリンの方に顔を向けた。
「なんでわざわざ確認したんだ? いつも一緒にやってるのに」
「え、それは、なんか」
 機嫌が悪そうだから……とは、なんだか言いづらい。そもそも、自分の怠けた発言が原因で、レンはむっとした顔をしていたんだし、と、リンは肩をすくめる。
「……いや、いい。ごめん、いちいち揚げ足取るようなこと言って」
 今度はレンがまっすぐリンを見て、申し訳なさそうな顔をした。リンが首を横に振って見せると、レンは安心した顔でうなずいた。
「練習するんだよな」
「うん。ほら、〈れな〉のタスクもあるし」
「そうだな、なら一緒にやろう」
 二人は食堂を後にした。