「めっちゃ練習した~!」
事務所からの帰り道、リンはわざとらしく大きく伸びをした。
「頑張るって言ったから」
レンはその横で、すたすたと歩く。特にリンの疲れを気遣いはしない。
「こんな予定じゃなかったのに!」
「結局欠黒象出なかっただろ?」
「それは結果的な話! まだ夕方だし分かんないよ……」
「じゃあ練習は無駄だったか?」
「……いや、欠黒象出たときのためにもなるから……いいんだけど」
「そういうことにしておけよ」
「うん」
無駄だったかと言われてしまえば、そうだとは返せない。リンはしゅんとしてうなずいた。
「……はぁ、欠黒象かぁ……」
リンはため息をついて言う。その顔を、レンは見る。
「前にミク先輩と話してたんだけどさ、なんで欠黒象が出てくるのかって」
「え?」
「自然発生だと思ってたけど、誰かがわざと発生させてるとかいうこともあるのかな、って」
「……」
レンは言葉を失ったまま、話すリンを見つめる。全く、想像していなかったようだ。
「もしそうだったとしたら、だよ。私たちの歌で欠黒象が消えるなら、その誰かにとって、歌は敵ってことなのかなって」
二人の間に、しばらく沈黙が流れる。
「歌が敵って、分かんないけど」
「……それは……俺も、分かんないな」
「だよね」
そんなことを話しているうちに、二人はアパートに帰りついた。食堂で頼んでいた料理を並べれば、夕食だ。
「……リンは、結局、欠黒象のことは……どう思う?」
支度をしながら、レンが聞く。
「どうであっても、私かミク先輩が歌わなきゃ消せないことには変わりないし、私は歌うことしかできないよ」
リンが答えて、まあ、そうか、とレンはうなずいた。
そのとき、リンの端末から通知音が鳴り響いた。
「えっ……」
これから夕食なのに、と思いながら、リンは端末を確認する。欠黒象の出現の通知だ。
「今帰ってきた途中のとこ……すぐ近くみたい……行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけて」
リンは支度をやめて、玄関に走っていった。レンはそれを見送り、支度の手を止めた。……きっと、すぐ帰ってくるだろうし、夕食はリンが帰ってきてから一緒に食べることに決めた。
一人になった部屋で、レンは椅子に座る。
「欠黒象の話ばっかりしてるから……」
そう呟き、息をついた。