初対面の話(楽屋編)

 予定していたはずの用事が突然なくなってしまい、リンとレンは、家で一日暇をもて余すことになってしまった。
 部屋にあるソファーは、背もたれのない平坦なタイプのものである。ベッドにもなるほどの大きさで、二人同時に寝転がることができる。気力のなくなった二人は、ソファーの上でだらけまくることにした。
 ソファーの上に秩序はない。リンはレンに脚を、レンはリンに腕を乗せ、互いにどけろとも言わず、そのまま転がっていた。
 なんの生産性もない時間をひたすらに過ごす。そのまま眠ってしまえるかもしれないが、用事があるつもりで起きたので、特に眠気も来ない。黙っているのも暇すぎて、リンは適当にレンに話しかけ始めた。
「もしもだよ、私たちが一緒に生まれてなかったとしたら」
「うん」
 レンも、適当に相槌をうつ。
「初対面のときどんな感じがするんだろうね」
「うーん」
「ミク姉が私たちを初めて見たときってどうだったのかな」
「うーん……黄色い?」
 実際にミクが初めて二人を見たときに、黄色いと思ったのかはさておき、そういう可能性もあるということにしておく。自分たちが黄色いことに違いはない。
「確かに。なら、同じ色だなって思ったのかな」
「うーん……」
「やっぱりどきどきしたりしたのかな。レンって男だもんね」
「うん」
「わー、なんかそう思うと変な感じ。そういえば男だったね」
「うん」
 そういえば異性同士だった。リンはレンの腕を払いのけて、自分もレンから脚をどけた。そして、体の向きを変えて、天井をぼんやり見つめたままのレンの顔を見た。
「当たり前に一緒にいたから考えたことないんだけど、レンってかっこいいもんね」
「うーん……」
「そんな自信なさそうな顔しないでよ」
「うん……」
 適当な相槌を続けているが、他にもっとかっこいい男性もいるし、ということを考えると、レンはなんとなく自信を持てなかった。
「ねえねえ、レンは、もし私を初めて見たときは、どきどきしたりしたと思う?」
 リンは体を移動させて、レンの顔の近くに寄った。
「うーん……」
 リンは顔を近づけて見つめてきているが、レンは天井を見たまま動かないでいる。
「あっ、まずは黄色いなって思うのかな?」
「うーん」
「で、でも、やっぱりさ……その……」
 やっぱり異性だと思うと、恋、とか、したのかな、と続けるか迷って、リンは言葉を止める。
「……」
 レンは、リンが何か言い終わりそうになるまで答えない。それを見て、リンは言葉を続けるのはやめた。そして、少し不満げな表情に変わる。
「……さっきから思ってたんだけどさ、レンはうんしか言えないの?」
「うーん」
 相槌では、うんかうーんしか、言っていなかった。
「また言った」
「……違うって」
 レンは体を起こして、リンの顔に背中を向けた。
「おお、喋れた」
「だから違うんだって……」
 ちょっと面白がるリンに、多少不満げにレンは言う。
「違うって何が」
 リンも慌てて体を起こし、レンの隣に座る。レンはリンの顔を見ないまま、ぼそぼそと呟く。
「そもそも……リンと初対面っていうのが全然想像できない……なんかいつも一緒にいたし……うーん」
「また言ったー」
 笑ったリンの方に、レンは勢いよく振り向いた。
「う、うるさい! 別に初対面じゃなくてもかわいいなって思ってんの!」
「え……!」
 さっきまで天井かどこかしか見ていなかったレンの目は、リンをまっすぐに見つめた。
「でも、一緒にいるからそういう価値観なのか、初めてのときからそう思うかなんて分かんないよ。最初から僕たち一緒なんだから、もう分かんないんだよ」
「……」
 リンは完全に照れてしまい、何も答えない。
「なに」
 レンも少し照れてしまいつつ、言う。リンはもう何も言えなくなってしまった。
「リンが話振ったんだからね? それに、かっこいいとか言ってきたのもリンだからね?」
 お互い、赤面のまましばらく黙るしかなかったのであった。