事務所から帰ってくるときに通った道は、そのときとは違う雰囲気になっていた。空が暗くなってきていて、道路沿いでは飾り付けられた提灯や行灯に光が点っている。帰りに見た、電柱にくくりつけられていたコードは、この照明のためのものだったらしい。
「綺麗だねー」
提灯と行灯は色とりどりだ。赤、青、緑、黄色……いろいろあるが、やはりリンは黄色に目がいってしまうのだった。
祭りの会場につくと、たくさんの屋台が並んでいるところに出た。
「夕ごはん食べちゃおうねー。私あっちの方行ってくるから、二人も自由に回ってね!」
ミクはそう言って、奥の方の屋台へ駆け出していった。
二人残ったリンとレンは、目を合わせた。
「レンは何か食べたいものある? 行きたいところとか」
「……よく、分かんないな」
各自好きにしてもいいんだけど、とリンは言おうとしたが、そもそも祭りに興味がなさそうだったレンは、祭りでどうすればいいか分かっていないようだ。誘ったのは自分だし、一緒に回ろう。リンはそう決めた。
「なんの屋台あるか分かんないし、一緒に回ろっか」
「任せる」
任せられたリンは、レンを引き連れる形で屋台を見て回ることにした。
光るおもちゃや金魚すくいのような、幼い子供向けのものもあるし、かき氷やチョコバナナ、りんご飴といったような甘いものもあるし、焼きそばや唐揚げ、ポテトのようなお腹を満たせそうなもの……一通り、夏祭りらしいものならなんでもある。
リンはちらちらとレンの表情をうかがった。視界には入れているものの、これといって何かに惹かれている様子はない。いつもお世話になっている事務所の食堂は、日替わりのものを提示してくれるし、自ら何かを選ぶということがない。娯楽の趣味がないレンならなおさら、ここにある屋台から何か食べたいものを選ぶというのは難しいだろう。……つまりは、リンの意思を大体通せそうだということだ。
いつもレンには、練習では教わってばかりで、常に優位に立たれているから、こうして引っ張っていく感覚は、リンにとっては新鮮だ。
「うーん、焼きそばもいいけど、たこ焼きもおいしそうだったし……一つずつ買って分けよう」
「うん」
リンが決めて、レンはただうなずく。言った通りに焼きそばとたこ焼きを一つずつ買ってから、二人は空いているベンチを探して座った。
買ってきたパックを二人でそれぞれ開けて、半分ずつお互いのパックに分ける。そして、焼きそばとたこ焼きを少しずつ食べる。
「ん~、おいしい!」
「そうだな」
「えへへ、レンと一緒だからこういうことできるんだよね」
「……確かに、そうだな」
嬉しそうなリンに、レンも微笑む。
焼きそばとたこ焼きを食べながら、リンは屋台の方を見つめた。
「私かき氷も食べたいんだよね。祭りでかき氷食べなきゃ帰れないよ」
「そういうものなのか?」
「そういうものなんだよ。絶対後悔するもん」
「へえ」
残りを食べきって、ベンチから立つ。ごみ箱にパックを捨ててから、かき氷の屋台の方へ向かう。人がかなり増えてきている。
「何味にする? 私はいちごにする!」
「俺は……」
そんなことを話していると、前方から小さい男の子たちが全速力で走ってきた。周りも気にせず走るその子たちは、人の間を走り抜ける。
「わ!?」
一人がリンの体にぶつかった。
「リン!」
よろけたリンを、レンが支える。子供たちはぶつかったことも気にせず、元気よく走っていってしまった。
「大丈夫か?」
抱き止められるように支えられ、リンはレンの体の温もりを感じていた。
「うん、……」
レンと目が合って、なぜかリンはどきどきしてしまった。支えられている状態だから、だろうか。
「危ないなあ……」
レンは小さく呟く。
「祭りだからはしゃぎたいんだよ」
リンは、言いながら立ち直した。
「本当に平気か? 結構勢いよくぶつかってきてたけど」
「ちょっと痛かったけどね、平気平気」
正直、リンにとっては、ぶつかってこられたことはどうでもよかった。それより、レンが支えてくれていた間の温もりが、なんとなく忘れられなくて、照れくさくなってしまう。
「気を取り直して! かき氷ね!」
リンは照れくささを隠すために強く言って、かき氷の屋台へ歩きだした。