食べ物の屋台を堪能した後、リンとレンはミクと合流した。祭りの締めの花火を見上げて、これこそ夏祭りなんだよ、と、リンはレンに笑った。レンも綺麗な花火には目を奪われているようだった。
花火も終わり、3人はアパートへの帰り道を歩き始めた。まだ、道路の行灯は片付けられておらず、祭りの余韻が残っている。
そんなとき、リンとミクの端末から通知音が鳴り響いた。
「えっ、欠黒象!?」
二人は端末の画面を確認する。
「ここじゃん、うそ」
地図では、今まさに3人がいる場所が示されている。
「……あれ、じゃないかな」
レンが、道の先を指差す。飾り付けられた行灯の光の周りに、黒いもやがかかっている。よく見ると、欠黒象だ。
「――リン」
「はい」
ミクが少し強気な笑顔を向けてきて、リンもそれに応える。
曲を探すその間に、欠黒象は別の行灯の方にも現れる。焦りながら、ミクは曲を見つけて再生した。
歌い始める前に、一つの行灯が欠黒象に飲み込まれて消えた。それは、黄色の行灯だった。リンは、少し心がちくりとしたが、構わず声を張った。
順調に、歌声は効く。他の行灯に広がっていった欠黒象は、ミクとリンが歌い終わる頃には完全に収まった。
「……大丈夫そう、だね」
ミクとリンは、周辺の行灯を確認した。
「お待たせ、レン」
歌を二人の後ろで聞いていたレンに、リンは振り返る。レンは、大丈夫と首を振った。
「余韻が台無しですよー」
「欠黒象も祭りを楽しみに来てたのかもねぇ?」
リンとミクは、そんなことを話しながら歩き始める。レンも、その後ろを歩く。花火がすごく綺麗だったよね、とか、明日から学校だ、とか、その程度の会話をして、アパート近くに着いた。
「浴衣はまた今度返してくれればいいから。おやすみなさーい」
ミクは手を振って、自分のアパートの方へ歩いて行った。リンとレンも、小さく手を振った。
自分たちの部屋に帰り、電気を点ける。浴衣を脱ぎながら、リンはため息をついた。レンは、どうしたんだとリンの方に目を向けた。
「……まさか欠黒象が出るなんて」
「……ああ」
1個消えてしまった行灯のことを思い出して、リンはやっぱり寂しい気持ちになってしまった。
「あ、でも。今日は祭り、楽しかったよね!」
「……まあ、そう、だな」
「たまにはこういうのもいいでしょ?」
「そうかも」
本当にレンが楽しかったのかどうかは、表情からはいまいち分からない。でも、放っておけば練習をしていたのだろうし、連れていけてよかったのだと、リンは思うことにしておいた。