世界の修復者と私のボイストレーナー (10)体調不良 - 2/5

 リンが部屋に帰ると、レンの靴は玄関にあるままだった。靴を脱いで上がると、リンの端末が通知音を鳴らした。メッセージが届いた音だ。
 リンが画面を確認すると、それはレンが送ってきたメッセージだった。
『今日は一日部屋で寝る。起こさないで』
 きっと、リンの帰ってくる音に気づいて、自分の部屋の中から送ってきたのだろう。……やはり、体調がよくなかったのだろうか。
『ごはんはいらないの?』
 そろそろ昼ごはんの時間だし、風邪だとしたらお粥を用意した方がいいかもしれない。そう思って、リンはメッセージを返す。
『いらない』
 すぐに、そう返ってきた。リンは端末を持ったまま立ち尽くした。いてもたってもいられないが、きっと、レンは部屋に鍵をかけている。起こさないで、と言われているのに、何かしようとしたら、……また睨まれるのだろう。
『リンは練習しろよ。レッスン室はいつも通り取ってあるから』
 リンがこれからどうするか悩んでいるのを察したのか、続けてレンからメッセージが来た。
『そうする。しっかり、休んでね』
『ありがとう』
 一往復のやりとりをして、リンは端末の画面を消した。……レンに言われた通り、練習に行くことに決めた。家にいたら、気になってレンの部屋のドアを叩きに行ってしまうかもしれない。
「行ってきます」
 リンは小さく言って、部屋の外へ出た。

 〈れな〉のタスクを一人でこなしたり、また現れた欠黒象を消しに行ったりしていたら、リンの日曜日は終わってしまった。レンのことは気がかりだったが、夜、アパートに戻ってきても、部屋は静かだった。レンを起こしてしまったら悪いし、と、リンは我慢して自分の部屋に入った。
 ベッドに寝転がり、目を閉じる。今日現れた欠黒象のことを思い出す。
 いつもより、増えるのが速かった。欠黒象なのは間違いないが、いつもは黒い四角形がぽつぽつと増えていくのに、火の粉が勢いよく舞い上がるかのような様子だった。
 思い出すと、視界に黒が広がる。――いや、今日はちゃんと、無事に消せた。そんなことにはならなかった。
 なってほしくない未来を考えてしまっただけだ。忘れなければ。リンはぐっと目を瞑った。