世界の修復者と私のボイストレーナー (10)体調不良 - 5/5

 午後になっても、リンは落ち着いて教室にいることができなかった。学校の周辺で次々と欠黒象が発生するので、ずっとそれを追って歌い続けた。
 教室に戻ると、クラスメイトは皆心配そうな目で出迎えてくれた。リンは大丈夫だよ、と笑い返した。
 気がつけば今日の最後の授業だ。宿題とかどうなっているんだろう、……まあ、レンに聞けばいいか、と、リンは離れた席のレンを見た。
 レンは時折、机に腕を置いてうつむいている。もしかして、まだ調子が悪いままなのかもしれない。リンがそう思っていると、レンは、手を膝に下ろしてから、そっと手を挙げた。
「すみません、気分が悪いので、保健室に行ってきます」
 先生がうなずくと、レンは立ち上がって教室を出ていった。
 心配だが、授業を聞かないわけにもいかない。リンは、レンの出ていったドアから机の上に視線を移した。
 せめてこの授業だけは落ち着いて受けたい……という、リンの願いは叶わなかった。数分後にまた、リンの端末が鳴った。
「ごめんなさい……行ってきます」
 謝らなくていいよ、と先生は見送ってくれて、リンはまた校舎の外へ出た。

 欠黒象が現れたのは、いつも学校のバスが停まる駐車場だった。昨日と同じく、いつもより速く増える欠黒象がリンを待っている。今日はすべてこれだ。
 明らかに、今までとは傾向が違う。ずっと学校周辺に、しかもこんな頻度で現れている。それに、だんだん校舎に近づいてきている。
 ――何か、意思でもあるのだろうか? そんなことを考えても、やっぱりリンには歌うことしかできない。手慣れてしまった操作で曲を流して歌うと、欠黒象は消えた。
 間に合っているから、いいけど。もし、手に負えないほどになったらどうしよう。考えてはいけないと思っても、考えてしまう。リンは首を振ってごまかし、校舎へ戻った。