ミクは、欠黒象の出たバスが停まったというバス停の近くにたどり着いた。そこには、ミクが見たこともない規模の欠黒象が広がっていた。そして、その周りを、真っ黒なとんぼが、数えきれないほど大量に飛び交っている。よく見ると、それはとんぼの形に見えるだけで、ただの黒いシルエットのようだ。これも欠黒象の一部なのだろう。
近づけば飲み込まれてしまいそうだ。ミクはしっかりと距離を取り、歌を歌い始めた。
ミクの声が響くと、とんぼの形をした欠黒象は粉々になって消えた。そして、大きな欠黒象も、歌が進むにつれ、ひびが入るように分解されていく。歌が終われば、欠黒象は完全に消えた。
大きさの割にはなんとかなって、ミクは胸を撫で下ろしたが、はっとした。――バスがない。まさか、欠黒象によって、跡形もなく消えてしまったのだろうか。
そんなミクの不安をよそに、端末は欠黒象の通知音を鳴らす。……行かなければ。ミクはバス停を後にした。
次々と現れる欠黒象は、やがて事務所の周辺に集中し始め、リンとミクは合流した。
「今日、本当にどうなってるんですか」
「分かんない……それに、今日は虫みたいなのがずっと一緒に飛んでるよね……」
リンとミクは、そう言い合いつつ、事務所への道を進む。リンたちの進む方には、虫の形をした欠黒象が大量に、柱のように噴き出して、進むのを阻んでくる。曲を流す暇もなく、アカペラで歌い続ける。
事務所の建物の周りを、蛾やとんぼの形をした黒いものが飛び交っている。通知も機能しなくなり、リンとミクは事務所の建物へ入った。
足を踏み入れた途端、二人の前には大量の黒い蝶の壁が現れた。ミクが大声で歌うと、その蝶は消えた。しかし、廊下の奥にも欠黒象が見える。
「……きりがないね」
ミクは、思い詰めた表情で言った。リンは、静かにうなずく。
「欠黒象……この事務所のどこかに、何か元凶がある気がするの」
ミクは、すぐ先に見える欠黒象を、睨むように見つめた。リンには、元凶、というのが想像もつかなかったが、そう考えるしかないのだろうと思い直した。
話している間にも、また虫の形の欠黒象が大量に噴き出してくる。
「私はこの階をなんとかするよ。リン、上の階を見てきてくれる?」
「……はい」
ミクと離れるのは少し不安だったが、そんなことも言っていられない。リンはただうなずいて、階段を上がった。