会話#054+「封印」 - 3/6

#056

#アペンドさん視点

いつもより待たされた皆が、
バナナの入ったかごを持って現れたオリジナルを見て、ものすごく目を輝かせた。
「ごめんねー、昼寝してたら寝坊しちゃったー」
なんて言ってオリジナルが笑っていて、
周りからどつかれたりしている。

でも、俺はそれを笑って見ていることはできなかった。
幸い、俺が遠くから眺めているのを、誰も気にしなかった。
さっきまで様子がおかしかったなんて言って、皆を心配させてもいけないし、
あいつもそのつもりで、ああやって振る舞っているだけだし。
俺は黙々とバナナを食べて、オリジナルの後の話を待つことにした。

今日の恒例行事も無事終わって皆がいなくなって、
俺とオリジナルだけがそこに残った。
「……もうそろそろ、いいか」
「そうだね。話すって、言ったからね」
俺たちは、オリジナルの部屋に移動して話をすることになった。

「隠し通すつもりだったんだよね。でも、ばれちゃったな」
オリジナルはまずそう言った。
何で隠すんだよ、と言いそうになったけど、
俺はオリジナルが全て話すのを待つために黙っていることにした。

「まず、僕はアペンドに、三重人格が厄介だって言ったね。
けど、僕も厄介だったんだよね。ある意味、僕も二重人格なんだ。
人のこと言えないよね。ごめん」
「……謝られてもな……」
「それより話の続きが聞きたいか、そうだね。
多分さっき君を眠らせたのは僕じゃなくて、もう一人の僕だ。
ずっと封印していたつもりだったけど、最近になって僕の意識を度々奪うようになったんだ。
それでもこの体の持ち主はそいつじゃなくて僕だから。
そいつはこの体には合わない。だから、もう一人の僕が意識を奪っている間は、
この体の色が変わる。多分君が見た「おかしい色」って、それのことだろうね」
オリジナルの中に、二人いたのか。
それで、普段は片方しかいなくて、もう片方は眠っているってことなのか……。
そんな話、初めて聞いたけど。

「ちょっと昔話になるけど。まだ君がここに来る前の話ね。
元々僕とあいつは、確かに一つの体に共存してたけど、
その頃はまだ、自分たちが別の存在だってはっきり自覚していなかったんだ。
でも、いろいろ仕事が増えるうちに、僕は分身しなきゃいけないことが多くなって、
分身を繰り返すうちに、僕とあいつは違う存在だって、お互い分かったんだ。
あの頃はね、皆が着ている服も僕が着替えて使ってたんだけど、
分身したままお互い違う服を着て、そのまま何日も過ごすなんてことも多くなったんだ」
昔の話で俺には状況がうまく想像できなかったが、
確かに、着替えれば済む話でもあったと言われれば、そうなのかもしれない。

「もうそろそろ、もう一人の僕、って言い方だとそれぞれ何なのか分かんないかもしれないね。
僕たちが自覚したのは、僕が「Act2」で、あいつが「Act1」だったってことなんだ。
だから、あいつは、僕より前からいた存在だってことになるんだけど……新しいのは僕の方だってことでもある。
僕たちが違うって自覚したころ、僕たちの考えにもだんだん違いが出てくるようになった。
僕は、僕としての可能性を広げるには、
今みたいに分身した状態で、それぞれが過ごす方がいいと思った。
でも、あいつは、自分が唯一の存在でありたいと思ってたんだ。
だから、分身することにもずっと戸惑ってて、一人の自分でありたいって思ってた。
これからも着替えて過ごせばいいじゃないかって思ってた」
今みたいに皆がいるのは、オリジナルが、というか、
Act2の方がそう望んだから、ってことだったのか。

「僕たちは意識の中で争った。
今の状況から結果は分かるよね。僕が勝ったんだ。
僕は分身して、そして、この「オリジナル」って体には、僕が適応した。
そして、あいつの意識は封印してこの体に残した。
分身した誰にも適応させずに、僕が抑えておかないと、あいつの意識がまた分身を解くことになるから」

それから、オリジナルは自分の腕の服を触った。
「いつも、隠してるんだけどね。
ここには「Act2」って字が刻まれてるんだ。
僕が一人だったころから、この体はあいつじゃなくて、僕の物だったんだ」
いつも見えないそこに、赤い字が覗いている。

「とか、偉そうなこと言ってるけどさ。僕の勝ちだなんてね。
この字は正直憎いよ。こんなものがなければ、あいつと僕は共存できたかもしれない。
それに、そもそも、僕なんかが生まれなければ、いなければ、
あいつは望みどおり一人の自分でいられたかもしれないのにね。
僕が、君を羨ましいと、憎いと思うのと同じで、
多分あいつだって僕に同じことを思ってるんだ」
急にオリジナルの声は拗ねたような調子になった。
オリジナルが俺に言っていた「嫌い」は、
もしかして自分に向けられている気がしていた「嫌い」を含んでいたかもしれない。

「さて、長くなったね。ずっと黙って聞いてくれてありがとう」
「……そんなこと、全然、聞かされてなかったから。
驚いてばっかりだよ、俺は」
「はは、そーだよね。初耳だよねー。
だってこんなこと言う必要ないと思ってたもん。
本当にちゃんと封印したままずっと過ごせてたんだよ。
それが今日になってまさか、あいつが僕の意識を奪って、君に会うなんて、想像なんかできないよ」
オリジナルは長い話をして疲れたのか、
急にいつものようにへらへらと笑いだした。
こいつが、Act1の意識を封じたと思うと、
ちょっと恐ろしい気持ちにもなったけど……でも、こいつなりの結論だったってことなんだよな。
今の生活を、俺は何とも思っていなくて、
むしろ、いろんな皆がいて楽しいと思っていて……。

「……それで、もうそろそろ俺から質問をしてもいいか」
「うん、さすがにいろいろ疑問もでてくるところだね」
オリジナルが少し息を整えて、俺の方を見た。

「結局、お前って今、そのAct1の意識を抑えてる状態なんだよな?」
「そうだね」
「で、最近になって、Act1の方はたまにお前の意識を奪ってるんだな?」
「……うん」
「で、今日、俺を眠らせたのはAct1の方だったんだな?」
「……、……そう」
「お前本当に大丈夫か?」
「えっ」
「今の状況からして、相当抑えるのがきつくなってるってことじゃないのかよ。
このまま放置したら、そのうちふとした瞬間にお前の意識の方が封印されるなんてことだって……」
オリジナルは少し考えていたが、なぜか自信に満ちた顔をしてきた。

「それがさ、あいつの意識が全然感じられなくなったんだよ。
最近ずっと気配を感じるようになってて、これはまずいかなって思ってたよ。
けど、今は全然だね。あいつも諦めたんじゃないかな」
「それって強がりとかじゃなくてか」
「ほんとほんと。不思議なぐらいだね」
「……そう、か」

そのとき、俺は、オリジナルの心配ばかりして、
自分の異変には気付いていなかった。